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2011年の7月より行われている、『緑の回廊』に描かれたパオロ・ウッチェッロの作品を含む一連のフレスコ画保存修復。そもそもこのプロジェクトが始まったのは2004年なのですが、予算の関係で一時中断されるなど数々の問題が発生した経緯があります。西洋美術史において重要な意味を持つ作品であることから、世間の注目度は高く、現在もじっくりと時間をかけて慎重な作業が進められています。 フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会に隣接する修道院にこの『緑の回廊』はあります。回廊を囲む壁には、『創世記の物語』をテーマにフレスコ画が描かれており、主な顔料にテールベルトを使用したモノクロ調に仕上げられていることから『緑の回廊』と呼ばれるようになりました。フレスコ画の制作には最低でも4名の画家が参加していたと言われ、創世記にまつわる場面をそれぞれ描いています。中には工房を経営していた画家もいたので、制作には弟子たちの参加もあり、多くの手が加えられ完成された作品も多いのではないかと考えられます。 回廊内に描かれている作品は、古いものでは1300年代にまでさかのぼります。その中でもとりわけ有名なのが、パオロ・ウッチェッロによって描かれた『ノアの物語』をテーマとする作品です。制作時期は1447~1448年とされており、特に壁面上段の半円形部分に描かれた『大洪水と終息』の中では、ウッチェッロ特有の遠近法がみられます。また、画面上に時間の異なる2つの場面を同時に描いていることも特徴で、画面左側には洪水によって水かさが増し人々が逃げ惑う様子を、画面右側では水が引いた後に横たわる水死体などが短縮法を用いて描かれており、物語の中でも有名な、方舟から放たれた鳩がオリーブの枝をくわえて戻り、洪水の終わりを告げる有名な場面も盛り込まれています。 作品は今日まで繰り返し行われてきた保存管理や修復が原因となり、深刻な痛みを被っています。簡単に修復の歴史を振り返ってみると、1800年代にガエターノ・ビアンキ、1900年代前半にはドメニコ・フィスカリによって大規模な修復が行われました。そして、第二次世界大戦直前にはローマ中央修復研究所によって作品の分離作業が始まり、1950年代にはレオネット・ティントーリがその作業を引き継ぐように、回廊に描かれている大半の作品をスタッコ法によって壁から分離させました。更に、1966年に起こったアルノ川の大洪水では作品に深刻なダメージが発生し、再び大規模な修復が行われたのでした。 古い時代に行われた修復では、壁画の傷んだ箇所を覆い隠すように加筆が行われました。その内容とは、今日の保存修復で行われているような作品のオリジナル性を尊重したものではなく、時には描かれている図像そのものの雰囲気を壊してしまうような荒々しいものでした。そして、それらの加筆がセッコ画法によって描かれていることから、使用されているバインダーが変質を起こし、作品に悪影響を与えてしまっています。 現在行われている保存修復ではそこに焦点が当てられ、顔料分析を行うことで、オリジナルの顔料層と後に加筆によって描き加えられた顔料との識別が進められ、本来の作品の雰囲気が取り戻されつつあります。しかしながら、常に外気にさらされた状態にある厳しい保存環境に加え、使用されているテールベルトが土系顔料であることから湿度に敏感に反応し、剥離が発生しやすい状態にある難点を抱えます。ですから、オリジナルの顔料層を保護しつつ、加筆部分だけを除去するのは容易な作業ではありません。部分的な範囲内での状況を確認しながら、作品に負担の少ない材料を用いて、慎重な取り組みがなされています。 またこの他にも、一度壁から分離され、マゾナイトなどの支持体に置き換えられていることから、通常のフレスコ画保存修復で使用される方法では十分な効果が得られないケースも少なくありません。フィレンツェには1966年に発生したアルノ川の大洪水を境に、壁から分離されたフレスコ画作品が数多くあります。こうした作品を効率良く保存・修復する方法を確立してゆくことも、今後の大きな課題であるといえます。 この保存修復プロジェクトは今後も継続して行われる予定ですが、近い将来、安全な状態を取り戻した作品が再び世間の注目を集める日が訪れることでしょう。 ここでパオロ・ウッチェッロに関するお知らせをひとつ。ウフィッツィ美術館所蔵の彼の作品『サン・ロマーノの戦い』。もともとピエロ・ディ・メディチの依頼を受けて3部作で構成された作品でしたが、現在残りの2作品はそれぞれロンドンのナショナルギャラリー、そしてパリのルーブル美術館に所蔵されています。今年の6月、3年間という修復期間を経て再び公開が始まりました。先月の4日までは、これを記念して大規模な展覧会も開催されていました。今回の修復では、作品に描かれている騎士たちが身にまとう甲冑の銀箔が剥落した部分に手が加えられ、本来の重厚感が取り戻されました。また、画面の左上と右上を覆い隠していた加筆部分も取り除かれ、今まで見えていなかったオリジナルの図像が明らかとなりました。緑の回廊に描かれたフレスコ画同様、ウッチェッロの得意な遠近法がふんだんに取り入れられたこの傑作を、フィレンツェを訪れられる際には是非ご覧ください!
by affresco-bastioni
| 2012-11-28 22:00
| 修復家の独り言
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