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本来、フレスコ画は建物の壁に描かれる事が多いです。イタリアの建築はレンガや石をベースに建てられており、材質的に堅牢である事を義務づけられるフレスコ画を描く支持体としては申し分ないと言えます。 こうした事を踏まえ日本建築に目を移してみると、木材やコンクリートを多く使用し、また短いサイクルで再建築が繰り返される文化ですからフレスコ画が発達しなかったのも納得と言えます(もちろん湿度に敏感なフレスコ画にとって日本の気候が適さないなど色々考えられますが…)。ですからなかなかヨーロッパで見かけるように大画面に思い切りフレスコ画が描くとい環境を見つける事は難しいかと思います。 しかし、フレスコ画という技法に興味を持つ人が多い今日、ちょっとした工夫でそんなに大きなものでなければ簡単に体験・作品制作する事は可能です。私は修復家ですので制作に当たっての注意点なども踏まえながら解説して行きたいと思います。 ①下絵の準備 フレスコ画は制作時間に制限があり、素早さと正確さが要求される技法です。ですから下絵の準備というのは日本画を描くのと同じようにとても大切です。事前に原寸大のデッサンを準備しておきましょう。スポルベロを使ってデッサンを転写する場合は穴開け作業も忘れないようにして下さい。 ②支持体選び 本来ならホームセンターなどで大量のレンガを購入してきて、庭先に積み上げ壁を作る事が出来れば理想的なのですが、現実的にはなかなか難しいかと思います。 最近よく見かけるのが、少し厚めのベニヤ板や石膏ボードなどに目の細かい金網や荒めの石などを貼付け、漆喰の噛み付きを良くして描いて行く方法。フレスコ画という技法はその耐久性が魅力のひとつですから、木材のように時間の経過とともに老朽化の恐れのある不安定な支持体は避けたいところです。 またもうひとつ、レンガと比べ吸水性に乏しく描画作業が困難になるうえ、フレスコ画技法のメカニズムのところで説明しましたが表面に形成される結晶の皮膜も非常に弱くなってしまうという欠点があります。 「それならブロック塀があるじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、セメントの中に含まれる硫酸カルシウムがフレスコ画に大きな問題をもたらします。ブロックが湿気を含みフレスコ画表面から蒸発する時に硫酸塩を運んでしまい、白く粉を吹いたような画面となり保存・鑑賞面でダメージをもたらします。ですから吸水性があるから何を使ってもいいかというとそうでもないのです。少し専門的な話になってしまいましたが、大切な事なので頭の片隅にでも置いておいて下さい。 同じ労力を使って描くなら末永くまで綺麗に残る作品にしたいですよね(それがフレスコ画の本来の姿でもあります)。ですから少し重さの面で持ち運びが不便になってしまいますが、ホームセンターなどで売られている薄手のレンガタイルや瓦などの中から吸水性の良さそうなものを選んで、支持体に使うのが好ましいでしょう。 ③漆喰として使用する砂とグラッセッロ(消石灰) フレスコ画制作に欠かせない砂と消石灰。 まず砂ですが、川砂を使用します。砂といえば、砂浜などに行けば簡単に手に入ると思われるでしょうが、海の周辺の砂には沢山の塩素が含まれており後々フレスコ画表面に噴き出し、ダメージをもたらします。(イタリアの海岸線に位置する街で見かけるフレスコ画の多くは表面が白く粉を吹いた状態になっています。これは表面に塩素が噴き出した為です。) 川砂はご自分で川で採取したり、ホームセンターで売られているものを購入していただいても問題ありません。ただやはり不純物(塩分・泥など)が含まれている可能性があるので一度水でよく洗い乾燥させてから使うのが好ましいと言えます。 自分の好みにあったアリッチョ、イントナコを作る為にはふるいにかけて粒の大きさを調節します。イタリアではアリッチョには1〜3mmの粒子、イントナコには1.5mmまでの粒子を使うのが基本です。 続いて消石灰ですが、イタリアではお店で簡単に生石灰を水の中に長期間熟成させたペースト状の消石灰(これを”グラッセッロ”と呼びます)を入手する事が可能です。しかし日本ではそうも行きません。簡単に入手出来る消石灰は粉末状に加工されているものが多く、これに水を混ぜてペースト状にして使う事も可能なのですが耐久性・色彩の発色の面で大きくグラッセッロに劣ります。 ですから出来れば生石灰を扱う業者さんから入手し、大きな容器に水を張り自分でグラッセッロを生成して下さい。生石灰(酸化カルシウム)が水と反応する時には高温を発する為多少の注意は必要ですが、そんなに難しい作業ではありません。私も自宅にこの方法でグラッセッロを保管しています。 グラッセッロは生成直後に使う事も可能ですが、熟成させればさせる程滑らかになり扱い易く、上質のフレスコ画を制作する事ができます。みなさんも数年間寝かせた自分オリジナルの上等なグラッセッロを作ってみて下さい。 なお消石灰を扱う際には、直接触れるとその強いアルカリ性から皮膚が溶け低温火傷したようになります。手袋の着用を忘れないようにして下さい。 それから北ヨーロッパやアジア圏ではよく漆喰の中に藁などの植物繊維が混ぜられています。基本的にイタリアでは砂と消石灰のみで描かれているが普通です。(稀にアリッチョの中から植物繊維が発見される事がありますが)描画層の漆喰に植物繊維を混ぜる事で水分の吸収率を良くし、描画時間を稼げるなど利点はあるのですが、主に2つの点で問題点があります。 ひとつは強度の面。時間の経過とともに植物繊維の部分に隙が出来、砂とグラッセッロの漆喰に比べるともろくなってきます。こうなるとカビなどの発生しやすい状況になり二次災害の恐れもあります。 もうひとつは、壁に含まれた湿気が壁画表面から蒸発する時に植物繊維から出る黄ばみを運んでしまい染みになる恐れがある、ということ。イタリアでは天井画の支持体に使われるカンニッチャが原因で大きな染みが発生し、修復家を悩ませる事がしばしばあります。 壁画修復家の間で頻繁に交わされる合い言葉に、「鉱物性のものを使いましょう」というものがあります。支持体から顔料に至るまで、出来る限り鉱物に近い技材を使用する事が、危険性の少ないフレスコ画を作る秘訣なのです。 ④アリッチョ アリッチョには支持体と同様、水の吸水性を高め、描画作業の時間をより長くする働きと、この上に施すイントナコの耐久性を向上させるという大切な働きがあります。 アリッチョに使用する砂ですが、単一な大きさの粒子を使用するよりは荒めのものと少し細かい粒子を混ぜ合わせて使用する方がより強度が増します。 砂とグラッセッロを3:1から2:1の割合でよく混ぜ合わせます。この時少量の水を加えてあげると作業が楽になりますが加え過ぎないように注意しましょう。 綺麗に砂とグラッセッロが混ぜ合わさったらアリッチョを施す支持体を霧吹きなどでよく湿らせます。レンガタイルなどを支持体として使う場合、あらかじめバケツに水を張った中に沈ませておくのもいいでしょう。 もし支持体の吸水性が低い場合は、アリッチョの中にレンガの粉を混ぜてあげるとアリッチョの吸水性自体が向上します。レンガには水分を沢山吸収する力があるからです。 十分に水気が含んだら鏝(こて)を使ってアリッチョを塗って行きます。(慣れは必要ですが、経験を積めば、必ず上手くなっていきますよ。)理想的な厚みとしては1〜2cmです。全体に漆喰が塗れたら固いスポンジや発泡スチロールの平らな面を使って、円を描くように表面を押し付けながら(結構力を入れても大丈夫なので、漆喰が沢山削り取られても恐れないで豪快にやりましょう!)、平らにならして行きます。この作業は支持体にしっかりアリッチョを密着させると同時に、この後に施すイントナコの噛み付きを良くする為のザラザラとした表面を作るのにとても大切です。この作業をするとしないでは強度に大きな違いが出て来ます。 アリッチョが綺麗に塗れたら、次の行程に移るまで最低でも1日間は乾燥させてあげて下さい。(季節や壁面の大きさにもよりますが理想的なのは3日から1週間です。)これも後々、強度面に大きく影響してきます。 ⑤イントナコ いよいよ描画層となるイントナコですが、使用する砂はアリッチョ同様、大小異なる粒子のものを混ぜ合わせると強度が増します。が、もともと粒子の細かい砂を使用するイントナコですから、準備するのが難しい場合は均一な大きさのものでも問題ないでしょう。 砂とグラッセッロとの割合は2:1から1:1。最初は分かりにくいでしょうが、回を重ねて自分の好みの調合レシピを見つけて下さい。この時、混ぜ易くする為少量の水を加えてあげても良いですが、出来る限り押さえて砂とグラッセッロだけで頑張って下さい。水を加えすぎるとならし作業の時に綺麗な表面を作るのが難しくなってしまいます。 ④の過程で支持体をよく湿らせたのと同様、アリッチョを霧吹きなどでよく湿らせます。そして十分に水気を含ませたらイントナコを塗って行きます。理想的な厚みとしては0.5〜1cmです。全体に漆喰が塗れたらアリッチョ同様、固いスポンジや発泡スチロールの平らな面を使って、円を描くように表面を押し付けながら、平らにならして行きます。こうする事でイントナコがアリッチョとしっかり密着して剥離防止や強度向上の効果が生まれます。 表面が綺麗にならせたら、軽く表面を指先で触って堅さを確かめます。直ぐに指がめり込んでしまうようなら水分が引くまで(支持体、アリッチョに水分が吸収されるまで)しばらく待つ必要があります。ある程度の固さが出て来たら鏝(こて)を使って表面をならして行きます。鏝をべったりイントナコ表面に密着させるのではなく、片方の側面を少し浮かしながらならして行くのがコツです。この時表面に対して適度な力を加えながら一気にスーっと鏝を引いて下さい。漆喰の中に含まれているグラッセッロがジワっと表面に浮き出て来て、鏡のように美しい仕上がりとなるでしょう。(砂とグラッセッロを混ぜる時に大量の水を加え過ぎていると、この現象が起きにくくなります。水分を含んでいる間漆喰は灰色をしていますが、乾燥すると綺麗に白色に変化します。)もし漆喰が水を引きすぎて綺麗にならせなくなってしまったら、霧吹きで水分を補給してあげて下さい。ある程度までは修復可能です。ならし作業は出来れば、スピィーディーに行いましょう。作業中、斜光を当ててあげると表面の起伏が確認ができ、作業しやすいですよ。事前に何度か練習しておかれるといいかもしれませんね。 美しい白色の下地を得るため、綺麗なイントナコを作る事は非常に重要です。なぜかというと、下地の白は顔料の発色、色彩のトーンに多大な影響をもたらすからです。 また、均一な厚みのイントナコをつくる事によって、バランスのとれた透明度の高い結晶の皮膜(カルサイト)が形成されますので、作品完成後の外観にも関わってきます。 左官業は慣れない方も多いと思いますが楽しんで習得してもらえればと思います。 これで下地作りは終了です。いよいよ描画に入って行きましょう!! ⑥デッサンの転写 スポルベロ、インチズィオーネどちらかの方法を用いて、デッサンを転写します。(もちろん直接描画していただいても結構です)この時、指先などでイントナコ表面から水気が引いているか確認して下さい。でないと紙が表面に付着してしまい綺麗にデッサンを写すことができません。 ⑦描画 絵を描き始める前に、あらかじめ顔料をパレットに準備しておきましょう。 顔料ですが、グラッセッロの強いアルカリ性に耐えうるものを選ぶ必要があります。変色などの危険性を回避するためです。最近では、日本でも「フレスコ画用顔料」として市販されているので、それらの基本色を購入されるといいでしょう。もしイタリアに旅行される機会などがあれば、日本の約半額で上質な顔料を購入できますので、お財布の中身に余裕があれば是非お買い求めください。 また、フレスコ画の特徴として、描画時とイントナコ乾燥後では色彩に大きな変化が現れます。どの位の違いが生まれるのか把握しておく事が、思い通りの作品づくりに繋がって行きます。事前に各顔料を漆喰の上に塗ってみて、変化の度合いを認識しておくと良いでしょう。また、色見本サンプルを作っておくのもいいかもしれませんね。 顔料は全て粉末状ですから、ちょっと息がかかっただけでも撒き散ってしまいます。スポイドなどを使って水を加え、湿らせておいて下さい。 描画を始めた直後はイントナコが水分を多く含んでいるため、絵の具の定着が悪く困難と感じるでしょうが、次第に水が引き出すと描き易くなってきます。最初はゆっくり、そして徐々にスピードをあげて描いて行きましょう。 季節にもよりますが、だいたいイントナコを塗ってから5、6時間で、イタリア語でMomento d'oro(黄金の時間帯)と呼ばれる、描画に一番適した時が訪れます。絵の具の定着がもっとも良く、水分がスーっとイントナコに吸い込まれて行く様子が目に見えて分かります。かつての巨匠達はこの時を見計らって人物の顔の仕上げなど、作品の中で最も重要な部分を手掛けたようです。しかしこの黄金の時間も1〜2時間程度しか続きません。その後は次第に炭酸塩化現象が進み、絵の具の定着が悪くなってきます。みなさんも描画作業を自分でコントロールできるように頑張ってみて下さい。 制限時間の中での描画は他の技法では味わえない独特の緊張感があり、疲労度もかなりのものです。しかし出来上がった作品は数百年、もしかすると数千年残るような素晴らしいフレスコ画となるでしょう!! ⑧描画後のフレスコ画 イントナコがある程度固まるまでには、最低1週間はかかります。移動させる際には十分な注意が必要です。 完全な炭酸塩化現象を起こさせ、綺麗にフレスコ画表面に結晶の皮膜(カルサイト)を形成するためには、高温・多湿を避ける必要があります。 炭酸塩化の反応は非常にゆっくりで、1年以上続きます。油絵でいうと表面にニスの層をかけて行くようなものですから色彩の鮮やかさも徐々に増して行きます。これもフレスコ画の魅力のひとつですから変わりゆく姿を楽しんで下さい。 以上が一通りのブオン・フレスコ法の制作行程です。なぜフレスコ画が特有の発色の美しさを持つのか、また他の絵画技法に比べ高い耐久性を誇るのか、をお分かりいただけたでしょうか? 現代の日本では、壁画とフレスコ画を同一視したり、意味を混同したりする事が多いようです。アクリル顔料などを使って漆喰の上に描画しフレスコ画と呼ぶ事もあるそうですが、これはもちろん厳密な意味で、伝統古典技法であるフレスコ画ではありません。下地が漆喰であるという面白さはあっても、この技法が本来持つ魅力を生かしているとは言えません。 フレスコ画が持つ数々の特色を理解している修復家として、今後フレスコ画を描こうと思われる方々には、イタリアで今なお完璧と言われるこのテクニックを、正しい知識のもと制作していただきたいと強く願います。 古の巨匠達が数百年の時を経てもなお、私達の前に数々の作品を残し、実証してくれているのですから…。
by affresco-bastioni
| 2006-02-25 00:00
| ブオン・フレスコ法での制作行程
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