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文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業『ミャンマーの文化遺産保護に関する拠点交流事業』。ここでこの内容に触れるのは3回目となります。今月、再びバガンの街を訪れ、前回同様No.1205寺院の内壁に描かれた壁画の損傷箇所への応急処置と、現地専門家への技術指導を目的とするワークショップを実施しました。 前回のブログ記事『再びミャンマーへ。壁画保存の為の雨漏り対策』の中でも触れましたが、バガン遺跡群に建つパゴダに共通してみられる問題「雨水の侵入と、それに伴う壁画の崩落」。今回は、No.1205寺院内で確認された天井漆喰層の剥離箇所の処置を重点的に行いました。 天井部分における漆喰層の剥離。この状況を処置するに当たり注意すべき点は、下方に向かってかかる重力にあります。例えば、支持体との隙間を埋めるために多くの充填剤を注入してしまうと、その重量が負担となり落下してしまう危険を伴います。壁画に用いられる漆喰層は例え薄く仕上げられていても、広面積となった場合その総重量はかなりのもとなります。それらが剥離を起こしているとき、例え重量の軽い充填材料を選んだとしても負担になることは否めません。また、剥離が起きている隙間内部を目視で確認することは特殊な機材でも使わない限り不可能ですから、充填剤が支持体と漆喰層を十分に繋ぎ止める効果を発揮しているかを確認することはできません。更に、通常隙間内部には埃など異物が堆積していることが多く、これらを十分に除去することができなければ、充填剤に幾ら接着力を持たせたとしても、理想的な効果は得られないのです。 これらを考慮して、今回は部分固定法と呼ばれる修復方法を採用し、剥離している漆喰層と天井支持体を繋ぎ止める処置を行いました。その方法とは、剥離している漆喰と、その下にある支持体(今回の場合は煉瓦)に直径1.5mm程度の穴を開け、支柱となる棒を複数箇所設置し、天井支持体と漆喰層を固定するというものです。こうする事で支柱は、吊り金具のような役割を果たしてくれます。また、この部分固定法の利点はもうひとつ、先にも書いた充填剤の重量を緩和する役割も果たしてくれるのです。 なお、支柱の固定には現地でも容易に入手可能な酢酸ビニル樹脂を採用しました。一連の保存修復技術は全て、ミャンマーで問題なく継続的に使用可能なものでなくてはなりません。決して最適であるからといってその国で入手困難なものを海外から持ち込み、事業が行われる期間限定の特別仕様であってはならないのです。もちろん、現地の専門家には「本来であればこういう材料があり、こういう使い方をするのが最も適していますよ」という事は伝えます。しかし、現時点において無理なく適切な処置ができる技術を的確に伝えることこそが、本事業において最優先すべき事ではないかと私は考えます。 上の写真は、実際に部分固定法を使って処置を行った天井です。実はこのアーチ状になった天井全体が剥離を起こしており、一番高い中央部分に向かって左右からのびる漆喰層同士が力学的に支え合うことで辛うじて崩落を免れている状況でした。仮にこの天井が平らなものであれば、既に失われていたことでしょう。写真をご覧いただくと、2箇所が大きく剥落し、屋外から流れ込んだ雨水によって壁画の表面が洗い流されている様子が確認できると思いますが、この雨水こそが漆喰層の裏面に流れ込み支持体との接合力を著しく低下させ、剥離を招いた原因であると考えられます。適切な場所を選定し設置した支柱の数は約30本。今回の処置を行う前には触れると天井全体が波打つように動いていたものが、処置後にはしっかりと天井支持体に固定されました。 また、この部分の雨漏りの原因と考えられる場所を特定し、外壁の応急処置も行いました。煉瓦の老朽化に伴い出来た大きな穴を塞ぐことで、雨水の侵入経路を遮断することができました。 また、今回の滞在中には、寺院の2箇所に設けられている出入り口に鉄製の扉を設置しました。ミャンマーにおけるパゴダは「釈迦の住む家」と考えられる神聖な場であり、中には仏像が祀られていることが多く、その前に花が手向けられている光景をよく見ます。本来は信者が自由に出入りし祈りを捧げる場でなくてはならないパゴダに扉を設置する主な目的は、内部環境の保存にあります。近年バガンでは観光客の数が増え続けています。それに伴い、パゴダ内部には心無い落書きや破壊行為が増えており、これらを防ぐ手立てとして、また、鳥や獣の侵入を防ぐ狙いもあります。こうして、壁画が残されているものなど、重要と位置付けられるパゴダには扉が設置されるようになりました。 こうした保存への取り組みを文化財保存の一専門家としてみた場合には、正しい取り組みではないかと思います。しかしその一方で、「これまでこの地を守り続けてきた現地の人々の目にはどのように映っているのだろうか」ということを考えます。ユネスコも加わり世界遺産登録に向け急速に整備が進められるバガン。ある意味、海外の様々な国が出入りしている現状は特殊であるといえるでしょう。以前『文化財保存に対する意識』でも触れましたが、専門家だけで文化財を守り続けて行くことはできません。やはり、その地に暮らす人々の関心と理解を得ながら進めてゆくことが、バガンの未来にとって重要であると考えます。ならば、どうすれば良いのか…現時点においてまだ明確な答えは見付かっていません。大好きな壁画を守るだけでなく、文化財保存の本質をみつめながら今後の活動に取り組んで行きたいと思います。
by affresco-bastioni
| 2015-06-20 21:00
| 修復家の独り言
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