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前回のブログでもご紹介したように、この壁画作品は上段部分と下段部分とで保存状態が大きく異なります。 上段部分は保存状態が悪かったことを理由に過去に白く塗りつぶされた時代があり、その後、表面を覆っていた白塗りの層が除去されるものの、その処置過程において描画層を大きく傷付けてしまいます。結果、壁画そのものの性質が変わってしまい湿度による影響を受け易くなってしまいました。痛みはどんどん進行してゆき、1961年には状況を改善させる最終手段として上段部分を壁から剥がし、木製パネルの上に置き換えて保存する方法がとられるのでした。 一方、下段部分に関しては、やはり『最後の晩餐』が描かれていることもあり人々から丁重な扱いを受け、また、幸いなことに雨漏りなど直接的な被害を受けることも無かったことから、描かれた頃の状態を今に伝えています。しかし、何事も無く無事だったかというとそういう訳ではありません。1966年にはフィレンツェを襲ったアルノ川の大洪水の影響を受け、大規模な保存修復が行われたのでした。 さて、今回の調査研究ですが、最後の修復が行われてから40〜50年が経過した現在、上段部分を中心に新たな痛みが確認できることから、保存状態の現状調査と今後の保存管理プランの構築を目的として行いました。その内容とは、大部分を非接触・非破壊で行える『視覚診断』を主軸として、作品全体に渡り調査を実施しました。 実際に足場に登って至近距離から作品の上段部分を観察してみると、過去の修復で補彩された部分は痛みが激しく、1961年の修復時に新支持体として採用された木製パネルも周辺に反りが発生していることが確認できました。 過去の補彩箇所の劣化についてですが、予測できる事としては窓から差し込む光が原因と考えられます。画面に向かって右側には午前中を中心に窓から強い日光が差し込み、今回調査に訪れた7月や8月には壁画表面の温度もかなり高くなります。壁画の保存修復における補彩作業では可逆性を考慮して、顔料にバインダー(アラビアガムやカゼインなど)を混ぜ合わせたもので行いますが、そこに直射日光が降り注げば、当然使用されているバインダーの劣化は進みますし、剥落や変色を起こす原因となります。そのことを裏付けるかのように、日光が届き難い画面左側を観察してみると、かなり良い状態で補彩が残っていました。 木製パネルの反りについては、湿度による影響が考えられます。1年を通じて、木製パネル内の水分含有率には変化が生じ(水分の吸収と放出)、この加湿と乾燥が反りの大きな原因となります。当時一般的に使われていたのはメゾナイトと呼ばれる成型板で、水分を含んだ状態で乾燥すると不均一な収縮や内部応力の残留が発生し、これが反りや亀裂を起こす原因となります。乾燥段階に発生することを考えると、先に述べた日光による壁画表面の高温化も原因のひとつであるといえるかもしれません。 こうした状況を改善させるためには、現在の壁画を取り巻く環境の管理態勢を整えることが解決策のひとつと言えるでしょう。 作品の下段部分に関しては、壁面からの分離を免れているだけあり比較的良好な保存状態が保たれていました。描画層に関しても総合的には安定しているといえるでしょう。しかし、部分的にはジョルナータの接合部分と亀裂箇所とが交わる点を中心にイントナコが剥離しているところもあり、このまま放置しておくのは危険であると判断できる状況も確認することができました。 また、紫外線照射ライト(UVライト)で調査を行ってみると、作品の大部分に過去の修復で塗布されたとみられる合成樹脂の存在を確認することができました。文化財保存修復が大きな発展を遂げた1960〜1970年代は、その扱いが非常に容易であることから合成樹脂が多岐に渡り頻繁に使用された時期でした。しかし、多量に塗布された作品は合成樹脂の皮膜に発生する小さな亀裂によって曇りが生じたり、変色を起こすことで作品鑑賞に支障を来すなど、後に大きな問題へと発展してしまう原因となったのでした。 壁画において合成樹脂を最終的な描画層の補強材として使用した場合、その一部は漆喰の内部へと染み込んでゆきますから、これを後に完全な形で除去することは実質不可能となります。そんな壁画に高濃度な合成樹脂を塗布するとどうなるでしょうか?気孔を塞ぐ原因となり、呼吸ができなくなった壁画は表面のみならず内部からの破壊によって蝕まれてゆくのです。 幸いなことに『最後の晩餐』はそういった深刻な問題は発生していなかったものの、部分的には許容量を大きく上回るとみられる合成樹脂の使用が確認され、観る角度によってはニスが塗られたように光沢を帯びていました。こうした部分も、今後作品を安全に保存・管理してゆくためには適切な処置が必要であると考えます。 旧サンタポッローニア修道院の食道に描かれ、現在上段部分と下段部分に分断されたアンドレア・デル・カスターニョのフレスコ画作品。間近から観るとその繊細な筆のタッチと丁寧な仕事振りを強く感じることができました。今後、少しでも良好な状態を保ちつつ後世にこの偉大な作品を伝えてゆけるよう調査研究を続け、適切な保存管理プログラムの構築を目指してゆきたいと思います。 《告知》 朝日カルチャーセンター中之島教室 講座のお知らせ 講座名:『よみがえる美-壁画修復の世界』 講師:壁画保存修復士 前川 佳文 (まえかわ よしふみ) 日時:9月7日(土曜日) 14:00~15:30 会場:アサコムホール(中之島フェスティバルタワー12階) 住所:〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島2-3-18 ホームページ:http://www.asahiculture.com/nakanoshima/ TEL:06-6222-5222 FAX:06-6222-5221 *お申し込みにつきましては、電話または朝日カルチャーセンター中之島教室ホームページよりお願いいたします。
by affresco-bastioni
| 2013-09-01 21:30
| 修復家の独り言
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