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いよいよ敦煌での壁画保存修復プロジェクトに向けての現地調査が始まりました。今回私は諸事情からチームに参加することはできなかったのですが、大変興味深い調査報告が届きましたのでお伝えしたいと思います。 今回のプロジェクトの対象となるのは『敦煌莫高窟 第465窟』で、13世紀に制作された密教壁画が描かれています。莫高窟の中では新しい元の時代に制作されたもので、同時期の窟となると僅か9窟しか存在しません。菩薩、歓喜仏など唯一チベット密教を題材に描かれており、広い莫高窟の中でも大変珍しいといえます。2009年まで数年をかけて行っていた『托林寺壁画保存修復プロジェクト』において、非常に良い成果が得られたことを受け、今回題材として関わりの強い465窟保存修復プロジェクトの案が浮上しました。 今回の調査の結果分かったことは、部分的な描画層の剥離や欠落部分はみられるものの、敦煌研究院の方々による保存管理のおかげで埃の堆積も少なく、比較的美しい状態が保たれているということです。しかし、部分的にみてみると、目的は定かではありませんが、作品が壁から剥ぎ取られた形跡もあり、その部分は特別な処置も施されないまま放置されています。描画層の支持体であるプラスターがすっぽりと抜けた状態になっていますから、その箇所から更なる問題が発生する可能性が大いに考えられます。また、場所によっては酷い描画層の剥離を起こしている箇所もあり、バインダーを多く含み厚塗りされている部分は端からの反り返りが発生しています。これもまた、このままの状態で放置しておくと、描画層剥落の危険性が考えられますから、補強を目的とした処置が必要です。この他にも、過去に行われた修復における化粧漆喰の塗り方など、オリジナルの壁画に負担を掛ける状態で手が加えられている部分もあり、適切な処置が必要だと考えられます。 今後は、漆喰層など壁画に使われている物質を分析し、この壁画に一番適した修復材料を選ぶ必要があります。また、一般にも公開されている窟であることから、観光客の出入りによっていかなる影響が壁画に及んでいるのかという点も、今後綿密な調査を進め、必要であればその対策も考えてゆく必要があります。 『敦煌莫高窟 第465窟 壁画保存修復プロジェクト』。ユネスコの世界遺産にも登録されているこの重要な文化財を後世の人々に伝えてゆくため、歴史的・芸術的価値を損なわぬよう細心の注意を払いながら、真摯に向き合ってゆきたいと思います。
by affresco-bastioni
| 2012-10-15 21:00
| 修復家の独り言
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